借地権って何? 借地権の概要、メリット・デメリット
マイホーム購入のために雑誌やインターネットで住宅情報を集めていると、なかでも割安で目に付く物件というものがあります。
そのような物件の詳細に「借地権」というただし書きがあるのを見たことはありませんか?
借地権という言葉から「土地を借りていつかは返さなければいけない」ということは予想できるかもしれません。
しかし、「いつまでに土地を返さなければいけないのか」「いきなり土地を返せと言われたらどうするのか」など、借地権がどのような権利なのか詳しく知っている人はほとんどいないと思います。
物件価格の安さから、何となく不安を感じる人も多いでしょう。
借地権とは何か、そのメリット・デメリットを知って不安や疑問を解消し、住宅購入の選択肢の一つとして検討してみませんか。
借地権とは?
借地権とは、建物を建て所有する目的で土地を借りる権利です。
借地借家法2条1号で「建物の所有を目的とする地上権及び賃借権」と定められています。
つまり、青空駐車場や資材置き場のように土地を借りていても建物がない場合、借地権は成立しません。
地上権と賃借権について説明すると複雑になるのでここでは省きますが、住宅を建てる場合は使用料を払って土地を借りる「賃借権」がメインの権利となります。
親が子に対して無償で土地を使用させるケースは「使用貸借」となり、借地権は成立しません。
土地を賃借する際は、土地所有者(地主)と借地契約を締結します。
借地権では「建物を所有する」という目的があるため、建物の寿命と同じくらいの長い契約期間が設定されるのが大きな特徴です。
借地借家法では、一定の契約期間を下回らないよう定められています。契約の内容によっては、50年以上の長い期間で契約しなければいけません。契約期間満了後は更新するか、土地を返還するかのどちらかになります。
あらかじめ更新しないと定める「定期借地権」もあれば、双方の申し出がなければ自動で更新される取り決めも可能です。
土地購入と借地の違い
購入して自分のものとなった土地に家が建っているのが、一般的に定着しているマイホームのイメージです。自分の名義で購入し所有権登記した土地は、売買したり、人に貸したり、融資の担保としたりと、自由に扱うことができます。土地の利用について最終的な決定権があるかどうかが、所有権と借地権の大きな違いといえます。
一方、借地契約を結んだ土地に家を建てる場合は、土地を購入せずマイホームを持つことが可能です。土地の購入代金を節約できますが、土地を利用している契約期間中は地主に対して賃借料(地代)を支払います。
土地を所有していると固定資産税や都市計画税が課税されますが、借地の場合これらの税は土地の所有者である地主が負担します。
借地権の種類
借地権について定めた借地借家法は1991年(平成3年)に成立し、翌年施行された法律です。
これより以前の古い「借地法」「借家法」は廃止されましたが、1992年(平成4年)7月31日までに契約が成立していた借地権は、旧法に基づく借地権として今も残っています。
そのため、現存している借地権は大きく「旧借地権」と借地借家法の「普通借地権」「定期借地権」に分類されます。
旧借地権
現在の借地借家法が制定される前の法律(借地法)に基づく借地権を、現在の借地権と区別して「旧借地権」とよびます。平成4年7月より以前に締結された借地契約には、旧借地権が適用されます。
旧借地権は、期間の定めがある場合も契約を更新し続け、半永久的に土地を借り続けることができます。土地の所有者はよほどのことがない限り契約更新を拒絶できません。
また、契約満了後、借地権者は土地の所有者に対して地上の建物を買い取ってもらうよう請求できます。
このように旧借地権は借地権者にとって有利な点が多い一方、土地の所有者にとっては貸した土地をなかなか取り戻せないというリスクがあります。太平洋戦争以前の日本社会では広大な土地を持つ資産家の力が強く、立場の弱い借地権者を法律で保護する必要があったためです。
しかし、戦後、社会構造が変化にともない土地の資産価値や権利バランスも変わります。
その結果、土地を他の用途で有効活用したい地主と、同じ土地に住み続けたい借地権者の釣り合いを取る必要が出てきました。
新法借地権(借地借家法)
このように借地権者の権利が強すぎると、土地の所有者はかえって土地を貸し渋るようになります。
そのままでは住宅地の確保や国土の開発、経済の発展にまで悪影響を及ぼすとして、新しく「借地借家法」が制定されました。
旧借地権では、地上の建物が滅失した場合も借地権が消滅することなく再建が可能でしたが、借地借家法では借地権者の勝手な再建は制限されています。
そして、土地の所有者側から解約や契約更新を拒否できる要件も明記されました。
また、期間満了後は契約更新をせずに土地を返還することを定めた「定期借地権」も新設され、普通借地権と区別して扱われるようになりました。
普通借地権
普通借地権は、契約の更新を前提とした借地権です。
契約期間は初回が30年、更新後の1回目は20年、それ以降は10年と、徐々に短くなります。
普通借地権の場合、地主側から正当な事由なく更新を拒否できません。
正当な事由とは、たとえば
・地主が自分自身で土地を使いたいとき
・借地権者が契約締結時と異なる土地の利用を行っているとき
・地主が借地権者に、相応の対価(立退料や代わりとなる土地の提供)を支払った時
などが挙げられます。
旧借地権と同様、借地権利者の保護が主眼に置かれていますが、旧法に比べて地主側の都合も考慮された内容となっています。
定期借地権
借地契約に更新がなく、期間満了時に土地を返還しなければならない借地権を定期借地権とよびます。地主への確実な土地返還が約束されるので、地主の立場からも安心して土地を貸し出すことができます。
定期借地権が認められるためには一定の要件があり、基本的に書面での契約が必須となります。定期借地権にはさらに「一般定期借地権」「事業用定期借地権」「建物譲渡特約付定期借地権」に分類され、それぞれ存続期間や条件が異なります。
一戸建ての住宅の場合、多くは一般定期借地権が利用されます。
一般定期借地権は存続期間が50年以上と長期間にわたり、必ず書面で契約しなければいけません。契約の更新や延長はなく、期間満了とともに土地を更地に戻したうえで速やかに返還しなければいけません。
地上に建物が存在している場合でも、借地権者から地主への建物買取請求権は認められません。契約期間満了後も借地を継続したい場合は、新たに一般定期借地権を結び直すことができます。
借地権のメリット
土地の購入費用を節約できる
マイホーム購入の際に大きな負担となる土地の購入費用を節約できます。
特に利便性の良い都市部は住宅地が限られており、郊外に比べて地価も上がります。
借地権付きの土地なら、土地を購入するより安価でマイホームを購入できます。
希望の街でマイホームが手に入りやすくなる
住みたい街が決まっていても、なかなか売地が見つからない場合もあるでしょう。
都心である・交通の便が良いなど、条件の良い立地なら所有者もなかなか手放そうとしません。
しかし、借地にして毎月の地代が入るなら、地主にとって悪い話ではありません。
借地権を選択肢に加えることで、希望のエリアや立地条件の良い土地のマイホームが手に入りやすくなります。
税金の負担が軽くなる
土地を購入すると、購入時には不動産取得税、所有している間は毎年、固定資産税や都市計画税などが課税されます。
借地権付きの住宅を購入した場合これらの税は建物部分のみに課税され、税の負担が軽減されます。土地部分の固定資産税や都市計画税は、地主が支払います。
借家より自由度が高い
借地権付きの住宅は、土地は地主のものですが建物は住人のものです。
賃貸住宅と違い、敷金の返還や原状回復を気にすることなく自由度の高いDIYが可能です。
借地権のデメリット
毎月の地代が発生する
借地契約時の保証金・権利金などの一時負担金の他に、契約期間中は毎月の地代の支払いが続きます。
住宅ローンと違い、毎月の支払いを続けても最終的に自分の土地となることはありません。
この点に抵抗を感じる人もいますが、住宅ローンや固定資産税と比べると毎月の負担が軽く家計を圧迫せずに済みます。
建物の売却や増改築工事に地主の承諾がいる
借地に建つ建物を他人に売却する際には、地主の承諾が必要です。勝手に売却すると、契約解除となり土地を返還しなければならないことがあります。
また、借地契約の内容によっては、賃貸や増改築工事を行う際にも地主の許可を得なければいけません。
これらの承諾を得る際に、地主に対して承諾料の支払いが必要なこともあります。
銀行融資の担保とできない
借地は他人名義の土地なので、当然ながらローンの担保として抵当に入れることができません。
マイホームを担保として融資を受ける際は、建物とセットで借地権を担保とすることになります。借地権の種類によって融資の受けやすさが異なり、旧借地権であればスムーズに融資を受けられるが、定期借地権では認められないと判断されることもあります。
また、借地権付きの土地に建つ建物は所有権のある土地の建物より評価が下がり、思うような額の融資を受けられないこともあります。
借地権について知らないとトラブルになる?
借地権は権利の存続期間が長期にわたるため、権利者の交代や社会情勢の変化によるトラブルが起きやすい傾向があります。
定期借地権でなければ口頭での契約が認められている点も、トラブルの原因の一つです。
特に戦中・戦後の混乱期は契約書面の残らない借地契約が多く、世代交代後のトラブルの種となっています。そのため借地に対してネガティブなイメージを持つ人も多いと思います。
しかし、正しい知識をもとにしっかりとした契約書面を作成することで、トラブルを防ぐことも可能です。
ここで借地権に関する不安や疑問について、具体例を挙げて解説します。
地主が交代しても住み続けられるのか?
借地権の契約期間中、相続や売買によって地主が変わることがあります。
土地の所有者が変わった場合でも借地契約は従来の契約が継続されるため、新たな契約は不要です。契約内容や条件も、それまでと同じものが継続されます。
新しい地主が土地を明け渡すよう主張したとしても、建物が登記されていれば借地権を主張してその土地に住み続ける権利があります。
地代を値上げされたらどうすれば良い?
借地契約が続くと、契約当初に決めた地代からの値上げを要求されることがあります。
地主の立場からすれば、地価が上昇すれば他の用途に転用したいと考えるのも自然なことです。
過去の裁判例を参考にすると、2~3年間隔の値上げが妥当と判断されています。
常識的な範囲の値上げならスムーズに対応して、地主との良好な関係を継続したいところです。
万が一、高額な値上げを要求され話し合いがこじれたとしても、地代を滞納すると契約解除の正当な事由となってしまうので注意してください。
このような場合は法務局の供託制度を利用して納得いく額の地代を払い続けながら、問題解決を目指しましょう。
高額な更新料を払わなければ契約更新しないと言われたら?
普通借地権の場合、更新時に更新料を請求する法的根拠はありません。さらに定期借地権の場合は、そもそも更新が前提の契約ではありません。借地権者が更新料を支払わなかったことを理由に、地主から更新を拒否できないことを覚えておきましょう。
しかし、同じ土地に住み続けたいなら、乱暴な断り方は避けた方が賢明です。地主との円満な関係を壊すことになりかねません。
更新料についてはあらかじめ地主と借地権者で話し合い、法的根拠を示しながら妥当な額となるよう交渉しましょう。
リフォームに地主の承諾がいるって本当?
借地契約では、特約によって増改築(リフォーム)の禁止を定めることができます。
特約で禁止されていないなら地主の承諾を得ずに増改築しても良いのですが、実際は「聞いていないぞ」とトラブルに発展するケースを良く耳にします。
増改築工事は、騒音の発生や大型車両の通行など、周辺住民に迷惑をかけることが多々あります。地域に長く住む人たちからは、苦情が地主に向けられることも予想されます。
トラブルを避けたいなら、特に取り決めのない場合でも工事前に地主に相談し承諾を得ることをおすすめします。
借地権者が死亡したら土地を返還しなければならないの?
借地権は、所有権と同じように相続の対象となる財産の一つです。
借地権者が死亡した場合、配偶者や子、孫などの相続人は家の所有権と一緒に借地権を相続します。
その時、対象となる土地の建物に住んでいたかどうかは問われません。借地権者の死亡を理由にした建物の取り壊しや土地の明け渡しを請求されても、応じる必要はないということです。
建物の相続登記と同時に地主に対して借地権を相続した旨を通知し、権利関係を明確にすることで対応しましょう。
建物を売却して借地権を譲渡したい時は?
借地借家法では、借地権の譲渡には地主の承諾が必要と定められています。
無断で借地権を譲渡した場合、地主は借地契約を解除し土地の返還を求めることができます。
そのため、建物を売却したい時は必ず地主の了解を得なければいけません。一般的に、借地の建物を売却する際には地主の承諾と引き換えに名義書替料を支払います。いわゆる承諾料です。
建物の売買契約の際、売主・買主のどちらが名義書替料を負担するか話し合い、契約書に明記しておくと良いでしょう。
まとめ
借地権付きのマイホームでも、建物は住む人の所有物です。
借地契約の期間中は、所有権のある土地のマイホームとほぼ変わらない暮らしを送ることができます。
借地契約は数十年という長い期間で契約しなければならないので、途中で追い出されるといった不安もありません。
土地を所有することにこだわりがなく、ライフスタイルの変化に合わせた引っ越しを前提に考えているなら、借地権付きの住宅も視野に入れてみませんか。
コラム監修者情報
木場昌也
二級建築士/ 1級施工管理技士
【現場管理】注文住宅・店舗 110棟
【販売】注文住宅 79棟
入社歴23年。8年現場監督経験を経て営業職に。
震災後は県内の品質管理、着工数の平準化を図るため工事管理職に従事。また注文住宅の安定供給、品質賞の受賞に携わる。
その後、ZEH普及、高気密・高断熱商品の開発、販売、店長職を兼任。